コンビニと常連さんと私の記憶

大学生の頃、駅ナカにあるコンビニでバイトしていた。コンビニという特性と駅という場所もあって、客層は多種多様だった。通勤客、通学客、旅行客、近所の常連さん...本当に様々な人達が利用していた。その中でも、常連と言える人達で私の心に残っている人達がいる。その人達のことを少し書きたいと思う。(お客さんのことを勝手に書くのは良くないかもしれないけど、もう10年以上前のことなので、私の記憶の一つとして読んでもらいたい。)

 

一人目は、近所に住んでいる常連のおじいちゃん。腰が曲がっていて、棚の上の方にある商品を取ることができない。そして、買うものはいつも決まっていた。レモンの缶チューハイだ。大体いつも4缶だけど、日によって2缶だったり、ロング缶だったりした。だから、その人が店先に姿を現したら、先輩がいつも同じレモンチューハイをすぐにバックヤードから取りに行っていた。先輩はベテランなので、その行動がすごく手慣れていて素早かった。私は、あ、またあの人が来たんだな、と思いながらレジを打つ。先輩とおじいちゃんが一言二言、言葉を交わす。そんな日々だった。先輩が後から教えてくれた話では、「あの人は実は地元で有名な偉い人らしい」ということだった。本当はどうかは分からないけれど、そう言われると、いつもちゃんとしたジャケットを着ているし、そんな風にも見えてくるのだった。

 

二人目は、30代後半くらいのお姉さん。いつも土曜か日曜の夕方に来て、お弁当と、お菓子や飲み物、そして歯ブラシセットを買って、駅のホームに向かっていくのだった。なぜその人が記憶に残ったかというと、私は一度街中で、そのお姉さんが小さい子どもを連れているのを見かけたことがあるからだった。だから、子育て中のお母さんが、毎週のように泊まりがけの用事に出かけていくことを、段々と不思議に思うようになったのだった。詮索してはいけないのだけど、一体どこに行っているのだろうと、あれこれ考えを巡らせてしまっていた。そして、「このお菓子、好きなんだよねー。美味しいよね?」などと時々話しかけてくれる、お姉さんの穏やかな佇まいが、私は好きだった。今でも、このお姉さんのことをたまに思い出す。その面影と、人は多面的であるという実感を、私に残してくれた人だ。

 

記憶に残る人達と書いたけれど、エピソードを書けるのはこの二人くらいかもしれない。いつも同じたばこを買いに来る商店街のお店のお姉さん、ちょっとライダー風のジャケットを着て、これまたたばこを買いに来る渋くてかっこいいお兄さん。その人達の顔もよく思い出すことができる。そんな常連さん達のことは、私の記憶の良い部分に仕舞ってある。

 

考えてみれば、親しくなったわけでもない、ただ店員と客の関係だった人々のことを、いい記憶として残しているのは不思議なことだ。けれど、人生を通して関わるわけじゃない、ただその一時期だけ、ほんの人生の側面として関わった人たちのことを、生きることに疲れた時に思い出してみるのも、悪くない。それは決して壊れることのないものだからだ。その人達の眼差しを通して、当時の私がそこにいたということを、振り返って確認することができるのかもしれない。