生まれてきた場所

大学の4年間でお世話になった寮を久しぶりに訪ねて、大好きだった裏庭を覗いた時、風がざーーっとふいて、木々が優しく揺れた。その時、木々たちが「おかえり」と言ってくれている気がした。

実家の車庫から家族を乗せた葬儀車が出ていく時も、とても優しい風が吹いた。亡くなった愛犬を車に乗せて火葬場にいく時も、同様だった。

人が住む場所に宿る何かは、そこで暮らしていた人との出会いと別れを分かっているんだと、直感的にそう思えた。

 

人や動物は死ぬことで、より自然に近くなるのかもしれない。土や植物や風は別れを告げているのではなく、自分たちの世界に迎え入れているのかも。そう思うと少し悲しくなる。宇宙、星、大地……国や社会より前に、私たちは計り知れない場所に生まれてきたんだなあと思う。